ＭＣプロデュース

私はナレーション作りの取材の為、前日にお姉様宅に伺った。
閑静な住宅街に佇む、とても立派な洋館。
広いリビングには、世界各国から苦労して手に入れたという
溢れんばかりの洋花で祭壇が設営されている最中だった。
品種の違うバラの数々、日本一のランやカトレア・・・・。
確かにセンスもあり、それは見事だった。

早速取材を始めたが、もちろんお忙しいS様は、同席できるはずもなく、
お姉様が泣く泣くお話して下さった取材内容をもとに
５分くらいのナレーションを作る約束をした。
（５分くらいって言われたから）
S様のことに関しての話は、ほとんど出なかったので、
『ナレーションには入れなくてよろしいですか？』
と聞いてみたが、お姉様は、
『両親の事だけでいいです』
ときっぱりおっしゃった。
（・・・ですよね！ワイドショーじゃないんだから）

ナレーションの構成は、こうだ。
・FUNETのプロローグ（当時は未発表で、試作・考案中でしたが）
・祭壇や遺影の紹介
・６０年前の大恋愛話
・２人の性格や趣味・晩年
繋ぎにもFUNETから抜粋し、５分くらいのナレが完成した。

よしっ！本番当日、意気揚々と現場に向かった。
すでに大勢の取材陣やカメラマンが集まっており、
仏の雰囲気ではないと思ったが、
その中に一際大声で仕切りまくっている女性がいた。
私が呆気にとられていると、葬儀社の担当者が、私に耳打ちしたてきた。
『あれが、S様のマネージャーですよ。
今日は、マネージャーさんの指示に従って下さい。』
『（うわ～・・・・・・イヤな予感）』
案の定、予感的中・・・
担当者同様、私も彼女にことごとく振り回される羽目になった。
この日に至るまでの担当者さんの苦労がよーく理解できた。

TAKE：1
『ナレーションの内容を確認していただけますか？』
ナレを渡すなりマネージャーはざっと目を通し
『あらダメよ。これじゃあ、Sの事がほとんど入ってないじゃないの。
もっとSを前面に出してくれなきゃ！あなたプロでしょ？やり直し。』
『・・・（はっ？今日はS様が主役ではなく、ご両親の法要ですから）』
喉まででかかったが、オペレーターに徹することも大切なり・・・
S様が大物になるまでのご両親の応援話を取材して繋げてみた。

TAKE：2
『これで、どうでしょうか？』
『長すぎるわねぇ～！S以外のところをカットして３分くらいにして。』
『でも、お姉さまは５分くらいのものをご希望されておりましたが・・・』
『いいの！３分にしてっ！私から言っておくから』
『・・・（もうっ！あなたは何様？昨日の打ち合わせの意味なし！）』
ムッとしたが、怒っている暇は無い。
本番の時間が刻々と迫っているのだから。


TAKE：3
『これで、いかがでしょうか？』
『いいわ。これでいきましょう。』
『（独断でいろいろと変えて下さるが、お姉様や葬儀社さんに
お伺いを立てたり報告したり大変なんだからっ！）』
もおぅ！・・・・。

そして本番直前にS様本人が到着した。
取材陣は、表周りのみ撮影が許可されているらしく、
庭でのS様へのインタビューが始まった。
『○×＊△×＊△△◎＊％○＋％○×＊＊～＃×＆“；△◎・・・』
何があったか、お話したいところですが、まずいのでやめておきます。
（芸能界は、まやかしじゃ～）
私が身を乗り出して覗き込んでいると又、マネージャーがやって来た。
今度は、何を言われるかとビクビクしていると
『司会は外で、取材陣に向かってやってくれない？』と言う。
『いくらなんでも、それは無理です。導師も焼香状況も見えなければ、
進行は出来ないし、遺影写真の見えないところで司会をするなんて、
おかしいと思います。』
これは、きっぱりと却下してみた。
（だって、ワイドショーに向かって司会するなんてありえませんから）
『それもそうね。』
すごすごと引き上げていった。
やれやれ・・・・。

弔電の整理もごちゃごちゃと面倒だったし、
本番中も表周りでやる最後のS様の挨拶の前に、
メイクを直したいから３分ほど繋げだとか・・・
（突然言うのですよ）
ナレでカットした部分をここで紹介したから何とかなりましたけど、
もうドタバタで、疲れ果てました。
けど、ワイドショーの裏も見れて面白かったですけどね。

本人のS様は、TVで見るとおり呑気で、穏やかで・・・
意外にもスリムで小さい方なのには驚きました。
マネージャーの仕事は、タレントを前に押し出すことも重要な仕事である訳で、
そう考えると、凄く有能なマネージャーさんですよね。
マネージャーさんの影の活躍で、やっぱりS様が光って見えました。
もちろんご本人も素敵でしたけど。
芸能界って不思議な世界ですね、あっぱれ～～！！

それにしても、担当の方との二人三脚。
共に大きな壁を乗り越えた達成感で、ホッとしました。
私以上の気遣いをされていた葬儀社様には、ホント頭が下がりました。
葬儀はやっぱり・・・究極ですね。

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