« ネタのような本当の話(井手一男) | メイン | 喜びも悲しみも「顎関節症」(石川 元) »

2005年01月25日

~故郷紀行~ (加藤直美)

カテゴリー : MCエッセイ 七転八起

私の故郷は北の玄関駅(上野)から特急に乗って1時間30分程。
今までこうして何度、この特急に乗って故郷へ帰っただろうか。

   

今回私が自身の入院を目前に帰った理由は、母の白内障の手術である。
去年から決っていた手術で娘の私は付き添うつもりで予定を立てていた。

私が育ったのは駅から車で15分程の場所。
当時はすぐ目の前に営林省育種場の広大な森があった。
秋に赤とんぼを追いかけ、冬は氷が張った水たまりで思う存分泥んこになった、
懐かしい思い出がたくさん詰まっている森。
しかしその森はもう無い。
その広大な森をつぶして数年前に県庁、県警、県議会、教育機関など、
県の様々な中枢が移転してきたのだ。
私は複雑な気持ちだった。

 

しかし、年老いた両親は大喜び。
大きな本屋さん、郵便局、銀行、CDショップ、焼きたてパン屋さん、
JTB、生協など等・・・も一緒にやってきたからだ。
高速のインターも出来た。
新宿からのバスは実家の側の停留所に停まるようになった。
そして最近、国立病院までが移転してきた。

母は、それも県庁の移転に合わせたように、
3年前市内から移転してきた老舗の眼科で手術をする。
この病院はつい最近、「病院機能評価」に認定されたと聞いていた。
大学病院のように大きな病院の認定は多いが、
個人病院としては、大変めずらしいという。
たぶん、ホスピタリティあふれる医療をしていると察した私は、
その病院で患者の家族を体験せずにはいられなかった。

病院という場所の患者の居場所はベッド。
疲れれば横になり起きていたければソファ代わりになる。
自分の居場所は確実に確保できる。
付き添いの家族の居場所はあるだろうか・・・。
大体がベッドの横に置かれた小さなパイプ椅子。
壁を背もたれの代わりにして患者を見舞う。
患者こそが辛いので家族は我慢する。
ゆったりとしたソファにすわってリラックスしたいなどと思うのは贅沢だとして。
私も今まで何回となく家族の入院に付き添ったが、
ちょっと位ベッドで一緒に横になりたいと思うのは私だけだろうか・・・。

葬儀社と同様、今、一般病院も生き残り戦争の真っ只中だ。
ある日突然、駐車場の看板に「患者様ご専用駐車場」などと
敬語が書かれてびっくりすることもある。
「様」をつけたから「敬語」にしたからって、中身が同じじゃ書くだけの無駄。
患者の満足はそこで付き添う家族の満足だ。
そして付き添う家族の満足は患者の満足でもある。
故人の満足は遺族の満足だ。
そして遺族や会葬者が満足しなければ故人も満足しない。
遺族も会葬者も、患者も付き添う家族も、
その居場所はあらゆる面で快適であって欲しいと願っている。
そこにある物、その場の雰囲気、そこにいるスタッフ全てのものから満足を得たいのだ。ただでさえ辛くきつい状態において、以外の事で我慢はしたくない。

この病院で驚いたのは、病棟の長い廊下に、たくさんの椅子がおいてあることだ。
エレベータ脇のホールにもたくさんの背もたれの高い椅子、
患者の手術を待つ家族がその背もたれに身を委ねて、
少しでもリラックスできるようにとの配慮だろう。
2階にある中庭にはテラスもある。
天気のいい時には風にあたり気分転換ができる。
家族だって少しでもほっと一息つきたいと誰もが思っているはずだ。
でも環境がそれを許さないことが多い。

   

葬祭ホール。
開式を待つ会葬者たちの居場所が無いホールがある。
式場内には入ることはためらわれる。
そんな時に気兼ねなく座れる場所というものが欲しい。
「気兼ねなく」というのが大事だ。
誰にも遠慮することなく悲しめたり、ゆっくりと故人を想ったり、
ほっと一息つける場所があったらなあと思うことがよくある。
デザインがおしゃれな高価な椅子よりも、座り心地の良い椅子がいい。
心の重さをゆったりとゆだねることの出来る椅子。
私の理想だろうか・・・。

この病院は家族である私が、
「もう少しここに居たい」「何度でもそこに行きたい」と思わせる。
すべての環境がリラックスできる雰囲気だった。
そして医療技術もさることながら、医者達も看護師たちもとても親切であり気持ちがいい。立派な病院の内外のたたずまいと
「病院機能評価」と呼ばれるにふさわしい能力を持つスタッフたち。
すべての環境が一定の高いレベルにあって始めて、
お客様は「心底気持ちがいい」と、五感で満足ことを家族として体験した。

投稿者 葬儀司会、葬儀接遇のMCプロデュース : 2005年01月25日 22:16

トラックバック

このエントリーのトラックバックURL:
http://www.mcpbb.com/blog/mt-tb-funet.cgi/797

(C)MCプロデュース 2004-2013 All Rights Reserved.