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2005年07月27日

恩師を見送る(加藤直美)

カテゴリー : MCエッセイ 七転八起

先日、82歳で亡くなった高校時代の恩師の葬儀に行った。
告別式の日、南柏にある葬祭場には多くの会葬者が集まった。
晩年は二人のお嬢さんのそばで過ごした恩師は、
最期はご家族に看取られて天国へと旅立ったと聞いた。
お嬢様にも厳しいお母様だったそうだ。
私にとってもとても怖い先生だった。
いつも「石井さん!」(私の旧姓)と怒られていたような気がする。
でも、女性として音楽家としてのしつけや常識を教えてもらった唯一の恩師だった。
葬斎場には同級生たちも集まった。
そして高校卒業以来、初めて会う先輩もいた。

仕事で伺う葬儀の現場で、時々とても賑やかな会葬者たちと遭遇することがある。
開式の頃には静かなのに、焼香が進む内に自席で喋り始める人たち。
特に式場の外で待っている人たちに喋り始める人が多い。
読経も聞こえなくなりそうな気配にご住職もイライラし始める。
ある現場では、読経中のご住職がいきなり後ろを振り返り
「そこ!静かにしなさい!」と後ろで喋っている会葬者を一喝したことがあった。
焦ったのは葬儀社の担当者。
若い男の子に「静かにするよう言って来い!」と言ったものの、
その男の子もお客様に向かってどのように注意したらいいものか
戸惑っている姿が、すごく気の毒だった。
まさかお客様に「静かにしなさい!」と怒ることも出来ない。
こういうときのお客様に対するスタッフ側の表現の仕方はとても難しい。
例えば「ご寺院様読経中のお客様同士での会話は、何卒ご遠慮くださいますよう
お願い申しあげます」などの言葉が書かれた看板を
置いておくのも一つの手だなあと思ったものだ。
まさか人差し指を口びるに当てて「しいっ~」と言う事もできないし・・・。





先生を見送る為に集まった100人近い同窓生。
そして葬祭ホールのロビーはそのまま同窓会の会場になっていた。
焼香が終わり、お別れ準備からお別れの間、
私たちは結構賑やかに喋っていたような気がする。
懐かしいメンバーが集まるということは、積もる話がある。
もちろん葬儀という悲しみの場所であることも分かってはいるのだが、
涙を流しながらの先生の思い出話が、そのまま昔の思い出話につながってしまう。
あの人はどうしただの、親の具合が悪いとか、子供の受験の話など・・・。
多分この日の葬儀スタッフたちも、私たちを賑やかな会葬者だと思っただろう。
先生の遺影も「あなたたち、少しうるさいわよ!」と言っているような気がした。

賑やかな会葬者というのは、戦友や教え子たちなど、
故人を中心に懐かしい人たちが集まった時が多いのだ。
そして故人がその人たちを又ここで出会わせてくれたと解釈したい。
だから、スタッフ側から見ただけで、喋っている会葬者を
「ただ、うるさい」と決めつけることは間違っているのかも知れない。
しかし葬儀スタッフとしては、
遺族には葬儀での静かな環境を演出してあげたいと思うのが当然である。
その時その時の両方の気持ちをくみ取った方法を模索して行くしかないのだろうなあ・・・
告別式の帰り道、恩師から最後の宿題をもらったような気持ちで、
私は様々なことを考えていた。

投稿者 葬儀司会、葬儀接遇のMCプロデュース : 2005年07月27日 00:25

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