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2006年03月29日

葬祭の経営戦略セミナーに参加して (井手一男)

カテゴリー : MCエッセイ 七転八起

関東のM市に展開するT社。
2001年2月の立ち上げから、わずか5年で急成長し続けるその経営戦略。
葬儀が施行出来るということと、葬儀社の事業展開は全くの別物であるが、
同じような葬祭経験者でも、どうしてこんなに違いが出るのか、何が違うのか
以前から大変興味がある課題であったが、今回その急成長の秘訣を学ぶべく、
セミナーに参加させていただく機会を得た。
そして多くの事を学べたし、感じることもできた。

 

そもそも昨年の11月に1回だけの開催予定だったものが、
参加希望者が多く、今年の2月に第2回、そして今回が第3回目とのこと。

「競合市場でマーケットを獲得する5つの経営メソッド」と題し、
その内容は、5ホールの現地視察(写真・録画自由)と講演の2部構成である。
主な項目は下記の5点。
1.急成長戦略 
2.営業戦略 
3.顧客満足(CS)の取り組みについて
4.人材獲得・人材育成
5.会館の展開・資金調達・運営など。

記憶とメモを頼りに、印象に残った話を紹介したいが、
取り留めのないレポートになるし、記憶違いがあるかもしれぬ。
また私の勝手な解釈も入るので、ご承知おきの上ご容赦願いたい。

10時30分からバス3台に分乗し、T社が展開する葬祭7ホールの内、
5ホールを自由に見学した。(時間的なものを考慮)
①パチンコ店を改装した1日1件の貸切型ホール。
②レンタルハウス形式の家族葬型ホール。(自宅感覚の提供)
③ハウスウェディングのトレンドを取り入れた自在型2式場ホール。
④30名程度のリビング型タイプ(輸入住宅改装)。
⑤100名1式場タイプのホール。

様々なキャパのホールを有し、そのコンセプトの間口を広くとることで、
多用なニーズに対応しているのだろう。
そして市内中心部にある火葬場を取り囲むように点在する自社ホール。
面的なホール展開がもたらすメリットは計り知れない。

祭壇その他の備品は、確かに工夫の跡が窺えるが、
他社と比較しても突出しているとは思わない。
そしてホールのエントランスは、正直に申し上げて何処も狭いと感じた。
決して贅沢な造りではないだろう。
ゆとり感がないけど…それだけに少人数のスタッフでも施行できる導線の確保。
売り上げとホールの坪単価の比較から、考慮された結果なのだろうか。
それでも無駄を排した綺麗な作りには好感が持てる。
<狭い>の発想を<無駄を省く>に転換することがポイントだ。
ここのホールでは無駄を省いた分、葬儀価格が抑えられるとの宣伝も成り立つ。

ミラノ館と名称されたホールがあったが、ナポリタンは食べれるの?
等と馬鹿な事を考えながら昼食を頂いた。(ごめん)
そしてこの地域は曹洞宗が多いと聞く。
しかし経机周りのスタンバイや、曲祿と焼香台のセッティング位置を見る限り、
シンプルな作法で勤められるのだろうと予想できる。
僧侶の数も多くても3名程度らしい。
ここでもスペースを詰められることで、無駄が省けている。
どうやら地域性も有利に働いているようだ。
だって北陸や東北のある地域では、導師の曲祿と焼香台までのストロークが、
最低5メートルは必要とされるホールも存在するのだから。

ホール建設の際のポイントはただ一つに絞ってあるそうだ。
悲しみの遺族の滞在時間が一番長くなる場所、つまり遺族控え室だ。
遺族の居住快適性を重視するのがホール建設のポイントらしい。
液晶テレビ・マッサージチェア・ジャグジーの風呂・高価なソファ…etc。
しかしこれは、全国のあらゆるホールでも取り組まれているし、
取り立てて急成長のポイントとは思えないのだが…。
そういえば、パソコンがなかったように記憶しているが…。
これからはIT環境の整備も必要になるだろう。
一点異なるのは、ホール入り口から一番近くに遺族控え室があるということか。

地域性も在るとは思うが、私は遺族の居住空間のみならず、
お手伝いの方々の控え室の充実もポイントだと思っている。
お手伝いしてくださる方々の快適性は確保してあげたい。
更に全国のいくつかのホールでも実践されているが、女性トイレの充実。
この施設でも有田焼の洗面台が存在したが、九州のあるホールでは、
女性トイレの個室に畳み半畳が仕込まれていて、ゆっくり着替えも出来る。
また洗面台の前には、ズラリと並ぶ試供品の数々…。
それぞれ女性への気遣いにはかなりの配慮がされているものだ。

私が戦略的に面白いなと思ったのは、<ワンブランド・ワンプライス戦略>だ。
葬儀価格をワンプライスに設定する。(もちろん例外もある)
値付けが難しいところだが、そのエリアの住民が葬儀価格の総額で、
幾ら位が妥当だと思っているか、幾ら位の金額で納得・満足するか、
その辺りのマーケティングがポイントであり、そして競合他社よりも、
当然2~3割程度安く設定しなければならない。
更には可能な限り追加料金を取らないことで、葬式に要する総額が明確になる。
そのメリットは、大きな信用・信頼を得られることはもちろん、
料金体系が分かりやすいので地域住民に浸透しやすいことや、
経験者に頼らなくても受注が比較的容易になることなど、
営業的に様々な戦略が立てやすくなる。
この<営業的な戦略が立てやすい>ということが大きなポイントになる。
しかし逆に、積極的な営業展開での失敗は致命傷にもなりかねない。
当然のことだが、戦略は功罪両面を必ず天秤に掛けねばならない。

ではその攻めの営業展開を見てみると…工夫の跡がうかがえる。
まず、ホール見学会は毎週のように行うという積極性。
チラシに謳うだけのお題目ではなく、本当に随時行うことがポイント。
土日祝日、そして友引は、まず休みがないそうだ。
そもそも葬祭ホールを見学したいなどと思っている人は、まずいない。
積極的に見学したいと思う人など、関係者か弊社の加藤親子ぐらいだろう。(笑)
いるとすれば、既に何らかの事情が発生しつつある人であり、
しかし、そのタイミングは誰にも分からないのだ。
今日は必要なくても、明日には必要になるかもしれないから…。
だからこそ、毎週のようにチラシ広告を発信し続ける必要がある。
更に事前相談はとても勇気が必要で、その理由付けを明確にしてあげること。
葬祭ホールへ足を運びやすくしてあげる工夫が大切。
そして来館者へのサプライズやチラシの打ち出し等、興味深い話が一杯聞けた。

大きなポイントと思える話は、営業担当部が2段構えになっていること。
葬祭ホール見学会やイベントに連れてくるだけの営業スタッフ。
(雇用形態はバイトかパート契約になるのだろうと思われる)
そして、ホール内での案内や説明を担当し、会員システムの入会をとる営業員。
(歩合制の給与体系でプロの営業スタッフだろう)
これこそまさに急成長の大きなポイントと思われた。

全国には起業から数年で急成長した葬儀社がいくつかあり、
表向きの打ち出しに様々なカラーを出してはいるけれど、
結局そのいずれも営業部門が心臓部であることに変わりはないようだ。
どのようにして顧客を囲い込むかで勝負が決まる。
かつては、病院や警察、地域の企業との契約が主だったが、
ここ10年来の業界の歴史を見ると、囲い込み戦略の優劣がポイントであろう。

話は前後するが、葬儀会社立ち上げの際、商品を決定しなければならない。
ここでいう商品とは、祭壇ではない、サービスでもない。
経営戦略上の商品とは、例えば
<互助会システム><共済システム><入会金システム>等である。
私から見れば、葬儀においてどの商品にも一長一短があり、
どれが優れていて、どれが劣っているかというよりも、
運用の仕方がポイントになると思っている。
商品が決まれば、営業部隊をどのような形で抱え、展開するかを決定する。
そこには<約束通りの施行>と<CS(顧客満足)>というキーワードがある。
これが良いと、口コミという強力な宣伝効果を生み出してくれるはず。

CS(顧客満足)のポイントは、サービス業であるから人材に尽きる。
その人材育成の考え方で興味深かったのは、
<人材は育成するのではなく、見つけるものだ>という発想。
素材を見つければ、育成しなければならないが、
<見つけた素材>だけに確実に成長してくれるから、無駄がない。
そしてその育成方法は、基本的に1年先輩が後輩を指導するというもの。
指導するということは、自分も学ぶということだ。
これはとても理に叶っているし、相乗効果を生む。
しかも教育に掛かる無駄なコストも大きく削減できる。

しかし大切なのは、<見つけた素材>を潰す<人罪>の排除。
厳しいようだが、会社にとって不利益を生み出す人罪は当然排除ということ。
後輩を指導しなかったり、悪影響を及ぼしたり、やる気のない人罪である。
おそらく、20年以上の歴史がある葬儀社では出来ない。
5年前に船出した会社だからこそ出来たのではないか。
私は、上司に当たる人罪をたくさん知っているが(まったくの私見ですよ)
簡単に排除は出来ない事情を抱えているものだ。
そんな中で、必要悪のように認知され、どうしても純化できないものである。
会社への長年の貢献もあるし、人には愛すべき良い点が必ずあるので、
人間的な柵(しがらみ)が付いた後では不可能に近いだろう。
若い会社だからこその強みを感じた。

積極的な女性スタッフの登用も興味深い。
女性スタッフに付けたピクシィー(妖精)の名称も思い切ったネーミングである。
(私の勝手な想像では、妖精は養成そして陽性で要請に繋がる)
<美人社員を作ろう>というテーマは、あながち嘘ではない。
もちろん心からの美人という意味であろうが、
それでも美容メイクやエステ、制服はオーダーメイド、ヒールは5センチ。
(石川なら間違いなく応募するだろう)
オーダーメイドは、太る事を禁止する目的もあるらしい。
(私なんか、胸パットを入れてたらどうするのだろう?と心配した…馬鹿です)
弊社のピクシィー・美人スタッフとしてチラシに掲載されて、
気分が悪いはずがないし、その家族にとっても誇らしい筈。
また当人たちのモチベーションの維持にも貢献しているだろう。
利益を最終的に25~30パーセントに押さえてでも、
会員やスタッフに還元しようとする経営努力は立派だと思った。
<社員の働き甲斐のある会社作り、県内で一番高い給料を目指す>
この分かりやすい目標に若いスタッフは一丸となる。
勢いが感じられる企業の共通点が見える。

とても充実した1日で、頂いた膨大な資料には実際のチラシも豊富。
夜の懇親会では、社長以下スタッフの方々が忌憚なく話してくれて
とても有意義な時間を過ごさせていただいた。
こんなに情報を開示して大丈夫なのかと心配になるくらいだ。
また弊社の司会セミナーや葬祭ディレクター対策研修会に参加された方々が
ナント7名ほど…。(驚きだね)
あちこちで声を掛けられたが、顔を覚えていたのは3名だけ。
本当に人の顔と名前を連動させるのが苦手なのです。
大変失礼をしました。

旧体質の葬儀社を反面教師として、様々な具体的発想があったようだ。
例えば、ミスを叱るより、報告がない事を注意する。
会社にとっての一番の顧客は営業社員という<社内顧客>の発想。
上司が部下に優しくなければ、スタッフがお客様に優しく接することは不可能。
CS(顧客満足)は地域のシェア率…etc。
会員サービス・会員フォローのイベント・料金体系の工夫・
葬儀と婚礼のメリット、デメリット・資金調達術・会員獲得術…etc、
普段はなかなか聞くことができない裏話も満載。
大胆な発想の転換、地域密着と顧客視点での販促には目を見張るものがあった。
大変多くの事を学ばせていただいた。
ご指導いただいたT社の皆様に感謝申し上げます。
ありがとうございました。

投稿者 葬儀司会、葬儀接遇のMCプロデュース : 2006年03月29日 00:00

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