“明日病院へ行かなくっちゃ”
その準備をしておこうと、夜なのに干したままだったことに気付いた、
病院行きに丁度良い衣服をとりにベランダへと立った、と思ったその時だった。
(私は相変わらず股関節痛で杖をついている身体だ)
スリッパを履き損ね、バランスを崩した私は、次の瞬間、
駆けめぐる痛みと共に青いポリバケツに倒れ込むように頭から突っ込んだ。
「ギャーッ!」
何とか体制を立て直そうとあがきバケツから頭を抜いた次の瞬間、
今度はその反動で、斜め左にあるタオルかけのステンレスの先が、
耳に突き刺さった。
「ヒーーーーーッ!」
「こーくーん、こーくーーん、助けてぇー」
(こーくんとは旦那さんの呼び名だ)
・・・・・シーン、聞こえないのか・・・・
私は一人で夜の夜中に暗いベランダで七転八倒を繰り返していた。
そして言うことを聞かない身体が次に仰向けに倒れ込んだその先は、
その先は、寒さでパリパリになった割れたタライだった。
そのタライのとがった破片が、とどめのごとく、
今度は私の尻に容赦なく突き刺さった。
それも尻のど真ん中にだ。
「ギャ、ギャ、ギャオーーーーーー!!!」
犬の遠吠えのように、
静まり返った夜の闇に、
私の悲鳴は無情にも消えていった。
私はとにかく衣服を握りしめ、何とか部屋に這うようにして入った。
そして、その居間の向こう側にある寝室で、
TVを観ている旦那さんの前に仁王立ちになった。
もう、40度もへったくれもなかった。
(ちなみに、夫の集中力と来たら半端じゃないので聞こえなかったのか・・・)
夫「どうしたの?」と、とぼけ顔。
私「あんなに大声で助けを求めたのにぃー」
夫「だからどうしたの?何にもきこえなかったよ」
私は事のいきさつを涙ながらに訴えた。すると、夫は突然
「ヒーッ、ヒーッ、止めてくれ~腹がツルーッ!腹がツルーッ」っと、
本気で涙さえ浮かべて腹を抱えて笑いこけている。
40度近い妻へのいたわりの言葉すら欠片もない。
私は「この役立たずー!広い家じゃああるまいし、人が死ぬ思いをしてたのに
何で聞こえなかったのよおー」と、涙を浮かべて応戦。
しかし、夫はまだ「ヒイーッ、ヒーッ、は、は、腹がつるー可笑しすぎるぅー」
とのけぞっている。
そりゃぁ可笑しいでしょうよ!バケツに頭から突っ込んだだの、
尻の、それもど真ん中にタライの欠片が刺さっただの・・・
元はといえば、たった一着の衣服を取ろうとしただけなのに・・・
私はやり場のない怒りと情けなさで、ひたすら旦那さんを睨みつけた。
弱り目にたたりめの最低の夜だった。
追伸1
それから何日も過ぎたある日、余りにも体調が悪く、
思わずポロリと涙をこぼした私を、
夫は優しく抱きしめてくれながらこう言った。
「大丈夫だよ、僕がついてるんだから」と。
何―!!!嘘つけー!!!
「この間、ついてても役に立たなかった癖にぃぃぃー」
追伸2
皆さん、高熱の時には、何があってもひたすらおとなしく、
布団をかぶって寝ていましょう。
どうせ動くとろくな事はございません。