研修会講師として様々な場所へ伺う時に、
その葬儀社スタッフの環境を知ることは、とても大事なことである。
会社側から様々な情報を聞いてはいても、本当のことは行ってみないと分からない。
この目で見て、直接話を聞いて、ようやく詳細が見えてくる。
いつもつくづく思うことだが、葬儀の接遇を学ぶ前に、そのスタッフの人間性は重要。
受講生の中には、接遇研修会そのものを無意味だと思っていたり、
講師を茶化すようなことを言うスタッフもいる。
又、スタッフ間が不信感のカタマリだったりする時、接遇研修会どころでは無い。
中には「その辺もよろしく」というような経営者やリーダーからのご依頼もあるが・・・。
今回のように、研修会そのものが初めてという火葬場職員の方々に、
どのような切り口でアプローチをするか・・・。
私はご依頼を受けてから当日までの日々、折に触れてこのことを考えていた。
初めて伺ったその現場は、思った通り山の中に位置する寂しい場所だった。
そこに10年程前に建てられた火葬場がある。
8月だというのにまだ紫陽花が咲いている。
「夜は、冷えるだろうな・・・」などと考えながら初めての火葬場に入って行った。
この日は友引だったので、犬の火葬だけがあるという。
3つ並んだ人間用火葬炉の隣に、動物用の炉があった。
地元のおばあちゃんが一人、亡くなった犬が収められている箱を持って来ていた。
ご主人であるおじいちゃんが、むずがるワンちゃんの首輪を離した途端、
道路に飛び出して車に轢かれてしまったとのこと・・・。
おじいちゃんは責任を感じて寝込んでいるという・・・。
そんなことを話しながら、おばあちゃんも涙を流し落ち込んでいる・・・。
私は離れた和室で、研修会開始を待っていたが、
そのおばあちゃんの悲しみの様子を肌で感じていた。
職員の方は、おばあちゃんの話し相手にもなりながら火葬されるのを待っているようだ。
家族同然に生きてきたワンちゃんを事故で亡くしたその方の気持ちが痛いほど分かる。
動物であろうと人であろうと、その悲しみの深さは変わらない。
動物の火葬に出会ったのは初めてだったが、その悲しみは同じであると感じた。
そのおばあちゃんは、小さな入れ物を持って来ていて、
ワンちゃんの骨を拾っていったという。
そして、一人職員に見送られて帰って行った。
この火葬場研修会を実施するきっかけは、お客様からの苦情だった。
この春頃、2件の苦情が葬儀社に寄せられたという。
ひとつは、火葬許可証を忘れた遺族が許可証を家まで取りに行くまでの数分を、
火葬場の控え室にもいれずに外で待たせたというもの。
もうひとつは、収骨を急がせたというもの。
職員に聞くと、それまで苦情を言われたことは皆無という。
多分、行政には苦情が届いていたものの、
現場に伝えられることなく今まで来たのではないだろうか。
行政は教育指導という名前が付くものを何ひとつしていないとのこと。
行政自体が自分たちの仕事を「サービス業」と思っていない以上、
仕方が無いことなのか・・・。
区役所などで、お役所仕事を見るにつけその低レベルに驚かされるが、
火葬場が民間委託されたとなれば、今度苦情が寄せられるのは委託先の葬儀社である。
「何とかしなければ」という思いは、経営者も講師の私も同じだ。
そういう意味で苦情は有難い。
お客様が何を思っているのかが、丸ごと分かるひとつのきっかけだ。
苦情を言っていただいて、初めて自分たちのことが分かる。
お陰様で、より良く変わって行くことが出来るのである。
今回の研修はまず、「なぜこういう勉強会が必要なのか」
という理屈の部分からお伝えした。
我々は「サービス業者である」、そして悲しみの極みである火葬場という場所で
①お客様は、何を感じているのか
②私たちには何が出来るのか
③何が出来なくてはいけないのか・・・・などのお話だ。
男性職員は、素直に私の話に耳を傾けてくださる。
職員の皆さんに、学ぼうとする前向きさがある。
これには安心した。
そして、社会人としての基本姿勢を細かく分けてご指導した。
最後には、実際の現場で今やっていることの検証と実践。
それを場面別に区切って、言葉がけと動きに分けてロールプレイングをした。
それぞれのスタッフがやっていることをお互いに見ることも重要だ。
それぞれが参考になったことだろう。
まずは、やってはいけないこと、言ってはいけないことを周知徹底する。
それが理解出来て初めて次の段階に進む。
次の段階は、実際の動きの検証。
言葉がけの内容・・・・と進んで行く。
接遇場面を区切って、統一の言葉も決定した。
収骨の場面では、それぞれの言い方が違っていることに気付いたようだ。
自分が言い易い言葉を選ぶことも必要だが、
お客様が理解できる言葉を選ぶことも大事である。
お骨の拾い方の説明では、「頭、胴体、足」と言っていたところを
「お顔の部分、お体の部分、おみ足の部分」という言い方に変えた。
それから、収骨は絶対に急がせないことの徹底。
火葬が立て込んで、次のお客様に多少待っていただくことになる場合もあるが、
1分や2分を慌てさせたところで、それ程の時間のロスにはならないだろう。
こういう時には、とにかく焦らないことだ。
職員の気持ちが焦ると、気付かない内に「非言語」「準言語」の行動に出る。
それをお客様は鋭く観察しているものだ。
こういう時には、深呼吸をして気持ちを落ち着かせることもお伝えした。
火葬場の中での数時間は、あっという間に過ぎた。
最後に感想をお尋ねすると、一人の職員の方は、
「自分が感じていたこと、思っていたことが、正しいということが分かり、
本当によかった」と言っていた。
そして、心を新たに悲しみの方々を支えて行きたいと言ってくださった。
人の悲しみを支えることは、人が出来る最高のおもてなしだと思う。
それを是非、実践していって欲しい。
久し振りに、やる気のあるスタッフたちとの後味の良い研修会だった。