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2007年02月12日

Kさんとの再会 (加藤直美)

カテゴリー : MCエッセイ 七転八起

10年前…。
葬儀の接遇講師を目指して、ちょっとだけ葬儀の世界を見るつもりが、
葬儀の仕事に魅せられて、そのまま葬儀の仕事を始めた。
返礼品の会社で、派遣社員として仕事をしていた。
その期間は、葬儀の中でスタッフが何をしているのか、
何をしなければならなくて、何をしてはいけないか、
等を式場の外側から見ることが出来る絶好の仕事だった。
今、研修講師として仕事をする中で、大きな力となっている。
女性スタッフのKさんとは、その時代に知り合った。


派遣社員としては、常に違う葬儀社様に伺っていた。
毎回異なる葬儀社様、環境が違う現場においても、
きちんとした仕事をこなさなければいけない。
これには随分鍛えられた。
初めの頃は、色々な葬儀社様の様々なやり方に戸惑いながらも、
必死になって担当者の指示命令に従った。
私を骨太なスタッフに育ててくれた要因だ。
何年も仕事をする内に、葬儀社様にも顔を覚えていただき、
お呼びがかかるようになっていった。
その中のひとつの葬儀社様に、Kさんはいた。
確か中野の無宗教葬の現場で、初めてKさんがデビューした日に、
私もその葬儀社に派遣として入っていた。

その頃、女性スタッフはめずらしく、
この葬儀社様でも現場の女性スタッフは一人だけだったと思う。
彼女がデビューして間もない頃に、車で桐ヶ谷葬祭場まで行かなくてはならなくて、
Kさんはその行き方を返礼品の営業さんに聞いていた。
その営業さんは、「葬儀屋さんに、桐ヶ谷の行き方を聞かれるなんて初めてだよ…」
と苦笑していたのを覚えている。
小型トラックの運転も慣れていないのに、
どんどんとチャレンジして行くKさんの姿を私は陰ながら応援していた。

私も講師活動が忙しくなり、現場の仕事が減って行ったが、
なぜか時々連絡を取り合う仲だった。
そして数年前に久し振りに会ったときには、
すっかり葬儀スタッフとして育った彼女がいた。
ここに来るまでは、彼女なりの多くの苦労もあったと思う。
しかし持ち前の明るさと頑張りが、Kさんをここまで成長させたのだと思った。

先日そのKさんから、合同葬の司会のお話をいただいた。
大きな葬儀は司会者石川さんが得意とするので、私は迷わずにKさんに紹介した。
そして合同葬当日、私はKさんに会いたくて、
また、会社の方にも、司会をご依頼いただいたことへのご挨拶をしたくて、
現場に向かった。

11時に遺骨入場と聞いていたので、10分前には到着した。
遺骨入場という大切な儀式を、邪魔をしてはいけないと思ったからだ。
しかし10分前にはすでに、式場入り口に社員の方々が整列していて、私は緊張した。
私はすぐに葬儀社の方(こういう時は、管理職らしい方を咄嗟に見つけることが大事)
にご挨拶をして、中に入る許可をいただき、サッと式場の中に入った。

そういうときに、社員が二列で両側に整列しているど真ん中を歩くという、
非常識なことをしてはいけない。
なるべく大テントの端っこを遠慮しながら、走らずに素早く歩くこと。
もし会計のテントがあった場合は、決してその中を横切るようなことをしてはいけない。
すでに現金が置かれている場合があるからだ。
また、その途中に出会った方には、どなたにも「失礼いたします」という挨拶と、
15度程度の会釈のお辞儀を忘れないこと。

私が式場に入ると、すでに式場内でも社員の方々が整列している。
私はそっと横の通路に身を隠した。この式場は何度も来て勝手が分かっている。
どこにいれば、ご遺族とバッティングしないかを知っていたので、
中に入って行けたということもある。
そこには大勢の方が整列しているのに、
誰ひとり話す人はいない「し~ん」とした空気に、
私も息を殺して、ご遺骨の到着を待った。
すると、聞きなれた声が、遺骨入場を案内した。
「石川さんだ…」
久し振りに聞く彼女の声は、すっかりアルトのいい雰囲気になっている。

葬儀の司会者は、婚礼やイベントのMCのような、
キンキンとした張り上げる声は、一切必要ない。
参列者がその声を聞いて、ほっと安心するような、
その方々の悲しみを包んであげるような、
故人をやさしい気持ちで振り返ることが出来るような、
暖かい声がふさわしい。
洗練された彼女の素敵なMCに、思わず私もほっと安心した。

ご遺骨が入場して、遺族や社員も控え室に落ち着いたのを見計らい、
幕の袖から覗いて、石川さんに私が現場に来たことを告げた。
私の顔を見て「こっちへ」と手招きしてくれた。
こういうときに、会社の身内の知っている者同士でも、
くだけた雰囲気で話すことは許されない。ここは葬儀の式場だ。
どこでお客様が見て、聞いていらっしゃるかは分からない。
それが後々のクレームにつながる可能性もあるからだ。
特に業者は気をつけたい。笑顔で談笑することなど、もっての他である。

普通の葬儀とは違い、合同葬や社葬などは多くの方々が関わるために、
打ち合わせも大変だ。
前もって打ち合わせがなされてはいるが、突発的なものが発生することも多い。
その辺りは、井手社長も石川さんも手馴れていて、采配ぶりにはいつも関心する。
私はこういう葬儀は、実は苦手。
どちらかといえば普通の葬儀、それも無宗教葬や音楽葬を、
得意とするようになってしまった…。

この後、私はKさんと再開した。久し振りに少しだけ話すことが出来た。
葬儀が始まるまでに、スタッフは位牌の位置や、遺骨の置き方、
バランスを厳しくチェックする。
香炉の置き方のバランスも少しでも違っていれば何度も直す。
椅子の並べ方、祭壇の生花のバランスなど…。
その合間に、終了は4時頃になるだろうことを考えて、
何かをお腹に入れたり、一服したり…。
もちろん、お客様の質問に答えたり、式場へのご案内も忘れない。
私も合間を見て、Kさんの上司の方や社長を紹介していただき、
ご挨拶と名刺の交換をさせていただいた。
それから多分エッセイ用の写真を撮る暇も無いほど忙しい石川さんの為に、
社員の方に許可を得て、デジカメで記録をした。
もちろん、私のエッセイ用にスタッフサイドの写真も忘れずに撮る。
しばらくして、遺族との打ち合わせから戻ってきた石川さんに、
「じゃ、頑張ってね」と一言だけ告げて、私は、次の打ち合わせに向かった。

最近、昔出会った若いスタッフが、
立派に成長して中堅になって活躍していることに出会う。
Kさんもその中の一人だ。新しい時代の葬儀スタッフ達が、
その能力を存分に発揮して、
日本の葬祭業界をもっともっと活性して行って欲しいと願う。
そのために、私も頑張って講師を続けようと思う。
何よりも、悲しみの方々のために心を尽くすことが、私たちの共通のミッションである。

投稿者 葬儀司会、葬儀接遇のMCプロデュース : 2007年02月12日 00:27

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