今回は、めずらしく81歳になる父が、
「顔を見せに来ないか?」と私に言ったこともあった。
父は最近、毎日続けていたウォーキングも、足腰が弱ってきてままならないと言う。
今年に入って何度か、布団から起き上がるときに、ズッコケて転んだらしい。
コタツから出るときにも、一生懸命にふんばって、立ち上がる。
母と私たちの旅行中に、外の洗濯物を入れようとして、つまずいた。
「差し歯と、めがねが吹っ飛んだ…」と、
力なく電話がかかってきた時には、旅先で焦ったものだ。
そんな日々が続いたので、私たち子供の勧めもあって、
高齢者の介護認定をもらうことにした。
行政に連絡をして、GWあけに審査が始まるところまで、話は進んだ。
ここまで来るには時間がかかった。
老親二人だけでは、慣れない手続きなどが進まないこともあるが、
気持ち的な部分でも「介護認定」を受け入れるということや、
「老い」へのささやかな抵抗…。
父にも、そして母も、気持ちは複雑なようだ。
でも私は、「早い内に、筋力の衰えを防いで、毎日のリハビリを教えてもらって、
今の体力を維持して欲しい」と、父に伝えた。
寝たきりにならないための準備こそが、大切だ。
母は、9月に「喜寿」を迎える。
体力が衰えてきた父を、影に日向に支えながらの日々は、
さぞや大変なことだと思う。
昔の母は、父の「三歩後ろを影踏まず」で、
生きていたような印象だが、最近は随分変わった。
自分の人生もしっかりと生きている。
何か集中できるモノがあるということは、人生を変えるのだ。
母のその集中できるモノとは、20年以上前からやっている「太極拳」
今や母も、遅ればせながら「師範」をいただき、日々その道に精進している。
母の妹も教室を持つ「師範」の腕前だ。
20年以上続けられたのには、その妹はじめ、周りの方々の大きな支えがあった。
何せ、母は人前に出ることが今も大の苦手(私の母とは思えない…)。
なるべく誰かの後ろに隠れていたいという性格。
その母は、家事の合間にいきなり「太極拳」をはじめる。
たまった疲れを発散するのだという。
そしてそのお陰で、心身がすごくリラックスするという。
その集中具合は、本当にスゴイ!
今回はエッセイ用に、ポーズをとってもらった。
母は、「変な形は、残せない!」と、
いちいち私のデジカメをチェックしては、撮り直させた。
私の手土産の「文明堂」で、3人でお茶を飲んだ。
私が娘に戻れる貴重な時間だ。
先日の叔父の葬儀の話から昔話に花が咲いた。
両親とは、生きている内にこそ、ナンデも話しておきたいと思っている。
こういう時間は、もうそれほど多くは無いかもしれない。
だからこそ大切にしたいひとときだ。
帰りには、いつも駅まで父が車で送ってくれる。
「80歳になったら車の免許は返上する」と言っていたが、未だ返上していない…。
さすがに遠出や夜の運転はしなくなったが、そろそろ返上も考えなくてはいけない。
「何かがあってからでは遅いからねえ」と、母とも話し合っている。
頑固だけれどやさしい父と、その父を支えながら生きてきた母。
実家には、いつもの静かな時間が流れている。
「いつまでも両親共々健康で!」と、祈らずにはいられない。
又、時間を作って、顔を見せに帰ろうと思っている。