グリーフ(Grief)を広い意味で語ると「喪失」です。
身近な人の死はもちろんのこと、
失恋、離婚、失業、リストラ、故郷を失うことも、「喪失」のひとつです。
今まで当たり前のように存在した実家が無くなるということに、
私の心がついて行きません。
かと言って、やらなければならないことは、次から次へと目の前に現れて、
必死にこなしているという感じです…。
研修会の様々な仕事と同時に行っていますので、
「エッセイを書く時間も、そんな心の余裕もありません…」というのが本音です。
「社長…ゴメンネ…」
その中でも、救われることもあります。
そのひとつが、父の「運転免許証の返納」です。
御年82歳。運転歴40年以上。
私が子供の頃から学生になっても、
何処行くにも父は車で送り迎えをしてくれました。
大学進学で東京に来たときには、まだ常磐自動車道が出来ていなくて、
国道6号線をひたすら走り、青戸の交差点から環状7号線に入り、
練馬区桜台まで布団と家財道具を運んでくれました。ありがたかったです。
その父も、すでに運転は…、当然、若い頃のようには行きません。
「周りの車が避けてくれるので、大丈夫だ」と言います。
「免許は絶対に、返納はしない!」と、言い張って来ました。
母も兄も、もちろん私も、父の兄弟姉妹、みんなが心配しています。
もちろん遠出はしませんが、かかりつけの歯医者や詩吟の教室、
ちょっとした買い物などの町内を運転してしまいます。
母が、目を離した隙に、乗って行ってしまうのです。
父も、年老いた自分との折り合いを付けられずにいる様子です。
気持ちは分かりますが、
何かがあってからでは大変なことになります。
その父が、やっと免許返納の気持ちになってくれました。
どうせ、東京に来れば、車なんていらないし、
第一怖くて乗れるはずもありません。
そんな父の、多分、ラストドライブです。
母は、仕方なく隣に乗って行きました。
どんな会話をしているのか…。
母は、多分父に対して、うるさいことを言っているのだと思います。
「止まって!」「はい!オーライ!」「ストップ!」ラストドライブだなんて、
感慨に浸る暇は無いと思います。
子供の私としては、切なくもあります。
「お父さん、長い間、家族やみんなのために、ありがとう。お疲れ様でした」
世の中や人様のために、これがきっと?最後の運転です。