原稿をどうぞ。
昔々、私が人材派遣で働いていた頃、
昔々、私が高級な時間給で働いていた頃、
昔々、葬祭業界がなんとなく穏やかで、それなりに儲かっていた頃、
昔々から、神道のお葬式は比率が少なく、珍しかった。
神饌物って、分かりますよね。
神に捧げる食物なんですが、地域性があってバラバラなんです。
東京では海の幸の代表としてタイ、川の幸の代表として鯉を捧げるのですが、
今日は、鯉のお話。
(わーすれられないのー、あの人が好きよ・・・鯉は鯉でもそのコイじゃないって)
人材にいた頃の、物を知らない頃のお話ですから笑ってください。
その日は、神道の飾りを手伝わなければなりませんでした。
社長から「井手くん、コイをシメて縛ってくれんか」
「あっ、はい」と返事をしたものの、
飾り付けを見たことはあるのですが、コイをシメた経験がありません。
恐る恐る「あのー、どうすればいいのですか」
と、バケツの中で元気よく暴れているコイを見て訊ねると、社長は
「大丈夫、まな板の鯉っていうだろう、まな板の上に乗せたら静かになるから」
「あー、そういうもんか、さすが物知りだなあ」、
コイさんも、往生際は感じるらしく、大人しくしてくれるもんなんだ・・・と思った次第。
結果、とんでもありません。
まな板の上で暴れること暴れること・・・そりゃあそうだよねえ、
誰だって生き延びたいもんねえ、生物としての本能だ・・・ふと横を見ると、
社長以下スタッフがゲラゲラ笑っています。
「だまされたー」
ここでちょっとウンチクを。
まな板の上の鯉が静かなのは、実は失神しているからです。
プロの調理人は、コイの側線を包丁の背中で撫でます。
ここには、コイの特殊な感覚器があって、ここを撫でられると、
コイはいとも簡単に失神するのでした。皆さん、知ってましたか。
私の経験では、知らない葬儀社さんの方が圧倒的に多かったですよ。
原稿と一番違うのが、ピンキーとキラーズの歌だよね。
しゃべっている途中で、歌う気が失せてしまいました。
後は、適当なアドリブかな。
実話が元になっているお話ですが、
これ以降、神饌物の鯛や鯉は死んでいるものを買うようにしました。
作業が全然楽だし、神前で<絞める(しめる)>っていうのは…ねえ。
また、後になって分かった話しですが、この時の購入者が、
「○○君、シンセン物を買ってきて、リストはこれね」と社長に紙を渡され、
<神饌物>を<新鮮物>と勘違いしたしまったとか。
馬鹿やろう、生きたまま買ってくるんじゃねえよ!