ところが歌の世界はシステムが複雑で、一般に著作権は次々と譲渡され、
作詞家・作曲家から音楽出版社へ、そこから管理事業者へという風に、
プロの音楽は集中管理されているものです。
集中管理を行う団体を「著作権等管理事業者」と言います。
著作権を保有しているのは作詞家の川内康範氏ではなく、
著作権管理事業者ということになります。
つまり、管理事業者の許可さえあれば、川内氏が何を言おうと森さんは歌えるし、
もっと言えば森進一でなくても「おふくろさん」は歌えるのです。
ところがパースを追加したバージョンはどうか。
これは「編曲権」の問題です。
編曲権とは文字通り音楽のアレンジ権の事です。
この編曲権は、著作権等管理事業者にはありません。
一般には譲渡の対象ではありませんから、音楽出版社にありますが、
音楽出版社にも難しい部分があって、それは「著作者人格権」というものです。
著作者だけの人格的な権利で、誰にも譲渡はできません。
おまけに、著作者人格権の中には「同一性保持権」と呼ばれる権利があり、
簡単に説明すると「無断で、改変するな」と言える権利です。
結果として、パース付きの「おふくろさん」は誰も歌えません。
要するに、楽曲をアレンジするのは法律的に難しいのです。
音楽の三大要素は「メロディ」「リズム」「ハーモニー」と言われますが、
葬儀の式場で、勝手に改ざんしている曲を聞くたびにビクッとします。
何故なら、そのほとんどが(全てに近いけど)、
著作者本人の了解・許諾を得ていないのは分かり切っているからです。
世の中のカヴァー曲は問題ないのでしょうか。
だってカヴァー曲にアレンジはつき物ですから。
人気のある曲、スタンダードの曲は、多くのアーティストからも人気があります。
まずカヴァーされていると思って間違いありません。
「花―すべての人の心に花を」は156人、「涙そうそう」は101人、
私が学生の頃流行ったイルカの「なごり雪」は、
カヴァーしたアーティストの数だけで80人という人気ぶりです。
もし著作者から訴えられたら、全て法律的には通らないでしょう。
編曲権と同一性保持権の処理は無理です。
プロの世界では、仁義を切ったり、煩い人のケースは諦めたり、
基本的にはお断りを入れて出版社が処理をしているようです。
一応の配慮はあるのです。
もう一度言います。
勝手にアレンジするのはダメですよ。