隣にいた私は驚きました。
ご主人の兄弟はすでに他界していますが、Y子さんには3人の妹さんがいます。
都内の一等地にお墓もありますし、菩提寺とのお付き合いも長いはずです。
「ご住職に相談しなくて、大丈夫ですか?」と私が聞くと、もうすでに話はついているとのことでした。
妹さん達はそれぞれに家庭を持ち、それなりの暮らしをしていることは、
Y子さんから聞いていましたが、何年も疎遠だそうです。
何かの深い理由があるらしく「妹達は、絶対に呼びたくない・・・」と、意志は固かったです。
他人の私には、これ以上何も言えませんでした。
生前相談にお付き合いをした経緯で、私はとても心配でしたので
「万が一の時は、私にも連絡をくださいね」と伝えました。
数ケ月後に、ご主人は亡くなりました。
病院が近いこともあり、私はすぐに駆けつけました。
案の定、来ていた身内は、亡くなったご主人の70才を過ぎた甥子さん夫婦のみ。
その甥子さんは悪性の病気を患っていて「長時間は付き合えない」というので、
結局私が、葬儀の打ち合わせに付き添いました。
Y子さんは、ご主人を直葬で送るからと言って、お金が無いわけではありません。
だから棺はいい物を選び、別れ花もプランの2倍近くを別途注文しました。
翌日、いよいよ出棺の時が来ました。
Y子さんの身内は誰も来ませんでしたので、納棺に立ち会ったのは、
Y子さんとその友人の私の母と、私、そして夫の4人だけでした。
病院の安置室に葬儀屋さん2人が来て、黙って納棺が始まり、あっという間に終わりました。
「直葬」を選んだのは、喪主であるY子さんです。
葬儀屋さんは「直葬」という任務を遂行することが仕事です。
しかし、納棺前にせめて故人の名前くらい言ってもいいと思いました。
生まれた日、亡くなった日、没年齢。
簡単でいいですから、故人への弔意があるならば、何かの言葉にして伝えて欲しかったです。
その時に私はずっと「南無阿弥陀仏」をお唱えしていました。
Y子さんの家は、浄土真宗高田派です。直葬という形でも故人に宗旨があるならば、
参列者にも出来ることはあると感じました。
「直葬」だからと言って、ただ棺に入れて運び出せばいいというやり方に、
私は違和感を覚えました。これからの時代、亡き人を見送る形はどんどん変化していくでしょう。
それならばどんな形があるのか、遺族をサポートする側には何が出来るのか、
さらに考えて行かなくてはいけないと思っています。
合掌